若者の心を起動する教育の作り方

アスバシ教育基金代表、毛受芳高のブログ

これまで1998年から15年、キャリア教育、街とつながる学校、総合的な学習の時間、教育コーディネーター、シチズンシップ教育、ESD、環境教育、国際理解教育、サイエンスコミュニケーション、教育CSRなどなど、様々な新たなテーマの教育を「教育コーディネーター」の側から手がけてきました。小学校から、中学校、高校、大学までの、子ども・若者のすべての発達段階と関わっていくなかで、見えてきた教育づくりのコツを紹介します。
若者は、「何か」に出会う体験を通して、心に火がつき、自ら主体的に動きだします。そんな体験を「心起動(ココロノキドウ)体験」(ユースアクティベーション)と呼んでいます。「心起動」現象はどう起こるのか?

ユースアクティベーション~若者の心に火がつく物語vol.1

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この夏のインターンシップで、高校生が出会った体験の物語を御紹介! 新聞で御紹介されたインターンシップ中のドラマです。普通科の高校2年生女子が、有限会社ケイフィールドというIT会社で、ゲームアプリ開発などを体験した3日間の物語。

●忙しい…怖い…という会社のイメージが変わる。

私が最初想像していた職場というものは、とても厳しくて、いつも忙しくて、とにかく怖いような、そんなイメージでした。しかし、ケイフィールドさんは私が想像していたものとは違い、社長さんはとてもラフな方で、社員の皆さんにも優しく接していただきました。

● 出来ないと思っていたことが、一つ一つ進めていくと出来て、自信に繋がった。

ゲームアプリ開発をしていくうえで、ゲームに機能を持たせるプログラミングというものがあるのですが、それがとても難しく、こんな自分がわかるはずないとか、理解出来る訳ないと思っていたのですが、一つずつ簡単なことから進み、エラーなどをみんなで解決しながら、ゲームを完成させることができました。そのとき社員の方に誉めて頂き、本当に嬉しかったです。

● 可能性を閉じず、やりたいことに向かっていける自分になりたい。
高校生は学校という社会の中で暮らしています。職場という社会とはちがい、まだまだ世界は狭く、知らないことだらけです。私はインターンシップをするまでは、将来をしっかり見据えておらず、ぼやぼやと描いていました。私は英語が好きなので、文系しか無理だと視野を自分で狭めていました。しかし、ケイフィールドの皆さんはコンピューターを使って、IT関係で、どちらかというと理系であるにもかかわらず、ほとんどの方が自分は文系だとおっしゃっていました。文系と理系はあまり関係ないよとおっしゃってくださいました。そのことばをきっかけに私は他の道を考えるようになり、今では建築や住宅デザインという自分のやりたいことを見つけることが出来ました。これもインターンシップあってのことだと思います。

● 積極的に動くことで、大きな差が出る。

まだ私がこのインターンシップでどう変わったかは自分でははっきりとわかりませんが、インターンシップでその職業を目で見て、社会を肌で感じることは、それをしないのと比べ、とても大きな差がでると思います。
ケイフィールドの社長さんが「後悔をするときは何もしなかったとき」と仰って頂いたように、積極的であるということは社会においてとても重要であると思います。このインターンシップをとおし、もっともっとたくさんの職業を目でみて感じたいと思いました。そのような気持ちになるのは、ケイフィールドさんのおかげであり、こういう気持ちが自分の将来設計につながっていくのだと思います。
たくさんの高校生が高校生活を送る中で、必死に手を伸ばして積極的に何事にも参加するのは自分の強みになると思います。私にとってそんなことも再確認できた、とても貴重なインターンシップでした。

 

2001年11月9日中日新聞「自分さがし~出会いと挑戦の機会を~」

毛受アーカイブスというのが、今回のブログのもうひとつのコーナー。
「30年はかかる」と思ってはじめた「教育を変える」のチャレンジも、あっという間に折り返し地点。これまで、いろんな場面で文章や論文、記事があります。

私が、思い、行動してきたことはこれまでにも変わらず一貫しています。そして、毎年毎年、活動しながらわかってきたことは、これまでにまとめた文章を通して、伝えられるものがあるとかんがえ、ボツボツ紹介していきます。

まずはじめに 紹介するのが、「中日新聞のひととき」というコラム。最初の第一回目の記事です。

今のように、キャリア教育という言葉が拡がっていない時に、自分の体験を踏まえてその意義をまとめています。アスクネットの理念にも入っている「出会いと挑戦の教育」は、このコラムからはじまっています。

自分探し~出会いと挑戦の機会を ~2001年11月9日中日新聞~

 「自分のやりたいことが見つらない」。私は高校三年の今ごろ、大学志望校選びで悩んでいた理系科目が得意だから何となしに埋系を選んでいたが、実際に志望校を選ぶ時になって、行き詰まってしまった。早々と志望校を決めていた友だちに選んだ理由を尋ねても「数学が得意だから」とか「ランクがちょうどいいから」など、表面的な選択ばかり。いろいろ考えても見つからないので大学時代に先送り。進路の選択の幅が大きい情報関係の学科を選んだ。

 そして大学時代、授業にもあまり出ずに、国際交流などのボランティア活動に打ち込んだ。その中でへ社会で活躍するさまざまな人と出会い、主体的に活動をじていく中で、自分の得意なこと、苦手なことが具体的に分かってきた。こうした試行錯誤の体験から、「自分がやりたいことば教育分野にある」と感じたが、時すでに遅し。教職免許が取れない学科だったのだ。高校時代にこの体験ができたら、と感じたものだった。
 
 振り返ってみると、社会で何がしたいのか、どんな人になりたいのか、そんな「自分探し」へのヒントを与えてくれたのは「さまざまな人と出会う」ことであり「さまざまなことに挑戦する」ことだった。そして、この「自分探し」が「何を学ぶか」の根幹を支える。しかし、これまでの学校教育を見たとき、さまざまな人との出会いも少なければ、規制が多くさまざまなことに挑戦できる環境でもない。いつの間にか、「学び」の根幹「自分探し」を置き忘れてしまったのではないか。

 今、日本の学校は変わろうとしている。知識偏重の教育から、自分の興味・関心を育てていく教育へとシフトが始まっている。それば、学校の中だけで学びが成り立つような閉鎖的な学びの環境から、学校を取り巻く街や地域の市民との触れ合いの中から、自分の興味・関心を発見し、学びを進めていく開放的な学びの環境に変えていく大きな挑戦だ。

 私たち愛知市民教育ネットは、この挑戦を市民の側から支援する非営利団体である。学校教育と市民をつなげ、生徒がさまざまな分野で生きる市民と触れ合う場づくりを推進している。

 子どもたちの「自分探し」、を助ける一人として、今こそ市民の出番だ。
 (愛知市民教育ネット代表理事)
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教育投資が生む「希望の配当」と「安心のリターン」とは?

将来が不安だから、貯金をする。

それはそれで大事です。

でも、それだけで希望と安心はうまれるでしょうか。

「将来が不安だから貯金」とコツコツ貯金だけしていても、雀の涙のような利子しかつきません。2%や3%の利子がついた時ならいざ知らず、わずかばかりの利息からは希望なんてものは生まれません。

しかも、日本がこのまま財政赤字を続け、何かのきっかけで国債が暴落してしまったり、ハイパーインフレが起こって、お金の価値が暴落してしまったら、安心も希望もあったもんじゃありません。

「貯金がダメ」だと言いたいのではありません。不安だからと言って貯金ばかりをして、本質的な暮らしを支える「人」の問題の解決に着手しなければ、安心や希望を生み出さないということがいいたいのです。

わたしたちの本当の未来の安心と希望を形づくるのは「人」です。社会がどんな状況になろうが、そこから這い上がっていこうという意志をもつのも「人」。協力し合い、困難をのりこえるのも「人」。資源が全くない日本が、この世界を生き抜いてきたのも「人」の力です。

仕事を単に「お金をもらうための手段」と考えるのではなく、自立して生計をたて、自らの力で未来を切り開いていくのが「楽しい」、そして、人のため社会のために働くことが「やりがい」に思う、そんな若者を育てていくことが、「希望」であり、「安心」を生み出すのです。

もし、教育にお金を出し、その結果、若者が大きく成長するエピソード・ストーリーが生まれたとします。
このストーリーをきくと、「こんな若者がいるなら、未来も明るいな~!」と自然に感じます。

これを私たちは、教育投資に対する「希望の配当」と呼んでいます。高校生のインターンシップ報告会に参加した、市民の感想を紹介します。

「高校生の生の声を聞き、寄付させていただきよかったなと思いました。目に見えない宝物=(未来への投資)を手に入れた感じです。」
「昨日の報告会では、私自身、初めはわずかばかりの「寄付」をしたつもりで、参加いたしたが、逆にもっと大きな「希望の配当」を、いただいて帰ってきたような気がします。感動しました。」 

そして、その後、その若者が様々な経験をつんだ後に、社会で担い手へと育つ。担い手となった若者が、私たちの暮らしを支え、納税者となった若者たちが社会保障制度を支え、その制度によって私たちは支えられるのです。

この段階を、教育投資にたいする「安心のリターン」と呼んでいます。
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前の記事で、一人の若者がフリーター・ニートになってしまったら約5000万円が損失すると述べました。

これがもし、一人の若者に50万円をかけたとしたとき、その若者が担い手へと成長したとき、その投資は5000万円以上を生み出したということ。投資効果は100倍なのです。

このことに社会が気付き、ひとりひとりの若者に目をむけて、動き出すことが重要なのです。

プロフィール

毛受 芳高

一般社団法人アスバシ教育基金代表理事。NPO法人アスクネット設立者。地域と学校をつなぐ専門家「キャリア教育コーディネーター」を提唱し、認定制度の基礎を構築した。現在は、主に高校生に対して、心に火がつき、動き出すきっかけとなる体験=「心機動インターン」へ社会の教育投資を集める仕組みを目指している。

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